ライフストレス研究所だより

長年の経験を活かしてライフストレスケアという次世代の人間学を紹介しています。

AI(人工知能)と集団的自己

個人的自己を前提とした集団形成は、個性の尊重とか多様性を認めるという意味では妥当であるかに思える。

しかし実際にどのような信念体系で集団を形成すればよいかとなると、個人の自己管理・自己成長に求めることにつながる。

AI(人工知能)が人間の仕事にとって代わることが現実的になってきた背景には、すでに職場が「個人」を単位にして、その能力を生かし、自己コントロールを要請する方式に変化していることがある。

世の中に流布している仕事論は、まるで、機械を動かしているソフトのバージョンアップの仕様書のようである。

それゆえに、その仕様書を読み込んだAIに仕事を代わってもらうことが可能になる。

ただ、そのような集団精神が個人の精神にどのような影響を与えているのか。それが現代のメンタルヘルスの課題である。

働きやすい、心身の健康を維持できて、集団の融和性が高く、能率もあがっていく組織をつくるのは、ちょうど一つの椅子であっても人間工学に基づいてつくると、疲れずに座れる機能を持てるように、もっと人間の心理について考察したうえで取り組んでいく必要がある。

とくに、人間が本質的に「集団的自己」であるという前提で現在の仕組みを見直してみる必要がある。

もちろん、企業活動は競争であり、ゆとりや、遊びの要素は無駄であると考えることも大切な価値観ではあるだろう。しかし、それで必要十分なのではなくて、それ以上に大切な信念体系・言説の流布が必要だと考えている。

競争主義を社員間にも導入して能力主義成果主義を徹底する考え方もあるだろう。しかし、その反面でなくしている価値もあるのではないか。

経営的な組織論として、メンタルヘルスの知見を生かしていくには、もっと説明方法や経営的視点との整合をはかる必要があるので、これ以上、深入りしないが、人間が働く場所であるという原点にかえって集団形成をしていく必要を述べておきたい。

それは福利厚生を充実させるとか、時間外勤務を少なくして、休日を増やすとか、様々な働きやすさへの工夫の話だけでなくて、組織の空気(信念・価値観・言説・思考行動パターン)の話である。

こういうと、経営者の方は、企業理念や経営者としての信念について語られるが、ひとつは理想論ではなくて、実際の思考行動パターン、集団内で流布している言説のことである。

家庭内の記事でも書いたが、言葉と同時にどこにどのような気持ちが込められているか、そちらに反応してしまうのも人間である。まず、思考より感情レベル。感情によって思考はまげられている。

そして、感情は快不快、好き嫌いを瞬時に判断して出てくるし、あるいは場面に応じて気分も変わってくる。これは思考以前の無自覚になっている「信念」(言説・ビリーフ・スキーマ)のレベルである。

そして、その反応を合理化するために思考が出てくる。

だから、このような組織論としてメンタルヘルスを扱う場合には、無自覚な信念体験のリサーチが必要になるが、それは通常、表にはでない。

トラブルを起こしたり、不調な個人のメンタルヘルスの問題だとして扱われる。

メンタルヘルスコンサルタントの役割としては、いまだ個人レベルであって、組織への介入は難しい段階である。

その意味では、経営コンサルタント部門で「人的資源活用」の専門としての力を蓄えて経営的なセンスのなかで、取り組んでいける力量がないと今後の活動は難しくなるだろう。

課題、山積である。まずは、一歩、一歩、道具立て、理論家、体系化を進めていくしかない。