ライフストレス研究所だより

長年の経験を活かしてライフストレスケアという次世代の人間学を紹介しています。

ポジティブ心理学と集団的自己

最近のポジティブ心理学では、ネガティブ感情とポジティブ感情の関係を「拡張形成理論」で説明している。

このポジティブ感情とネガティブ感情を比較したときに、前者が後者より高いことが、健康、成功、質の高い人生に関係しているという。3:1という比率も仮説として提唱されている。

ポジティブ感情 ⇒ 

�@喜び  �A感謝  �B安らぎ  �C興味  �D希望

�E誇り  �F愉快  �G鼓舞  �H畏敬  �I愛

ネガティブ感情 ⇒

�@怒り  �A悲しみ  �B圧迫  �C侮辱  �D欺瞞

�E恐怖  �F困惑  �G自責  �H恥辱  �I憎悪

収縮方向のネガティブ感情の状態では視野が狭くなり、緊張することで、ストレスの対象にむかって集中して、自分の持っている力を全力で発揮して乗り切ろうとする心身の備えを実現しているという。

つまり、危機に際した、感情の状態にふさわしい認識の在り方や、身体の状態が用意されている。

それに対して、ポジティブ感情の場合には、緊張は解かれて視野が広くなり認識も拡張するが、その感情の種類によって、目的を実現するような身体的な特徴は見当たらない。

では、この拡張方向のポジティブ感情の状態にはどういう生存上の意味があるのか。

それは、ネガティブ感情の状態では自分の中にあるものを使っているので、ある意味アウトプットだけで、新しいものを習得しているわけではない。

ところが、ポジティブ感情の状態では、たとえば、子ザルたちが楽しそうに遊んでいるときに、遊びの中から新しい動きを見出したり、仲間との協力の仕方を覚えたりするそうだ。

つまり、人間でも、創造的視点、発見をすること、新しい思考や行動パターンを生み出すこと、仲間との交流を通じて人的資源を増やしていくこと、つまり「今の危機に際しての生存手段」というよりは、将来にむけての「生存手段」の拡張をしているということらしい。

私がこのところ書いてきている「集団的自己」という視点から考えるとポジティブ感情の状態は集団的自己として調和しており、ネガティブ感情の状態では不調和をおこして「個人」がむき出しになっていることが考えられる。

ただし、ネガティブ感情の状態でも、集団的に一致団結して防衛や闘争にむかっている場合がありえるだろう。

ポジティブ感情を増やしていくという実践が求められるが、すでに説明したように、仮に3:1で考えても、ネガティブ感情がなくなってもいけない。

従来はポジティブ感情を個人の「認知」や「行動」を変えることで増やしていくという提言がなされてきたが、「集団的自己」の在り方として考えることが必要だと私は考えている。

それぞれのポジティブ感情は、個人的なものだけでなく、相手や集団を想定することができるが、とくに「感謝」や「愛」は相手や集団との関わりで生まれる。

ここまで書いてきたこととして、集団の形成は、流布している「言説」からできている「信念体系」から考察する視点、さらには、個人的自己保存としてのネガティブ感情状態、集団的な将来への資源蓄積としてのポジティブ感情状態という視点があることだ。

拡張状態で蓄積される新しい知恵、思考行動パターン、様々な発明・発見は、現代社会では社会的に共有され、活用されていく。

真剣な仕事意識とは違うといってネガティブ感情を優先するのではなくて、喜び、興味、愉快といった娯楽的にも思える世界が新しいものを生み出していることを忘れてはいけない。

そして、感謝や愛といった人間関係や集団性のなかで、従来は倫理や道徳としてとらえられてきたものが、実は将来の生存にむけて、健康、成功、幸福、質の高い人生に大きく関係するものだということも知っておきたい。