ライフストレス研究所だより

長年の経験を活かしてライフストレスケアという次世代の人間学を紹介しています。

自然と「自己」と社会の軋み

自然ー身体ー感性ー感情ー意志ー思考ー信念ー言説ー集団ー社会

この連なりが人間だというモデルを検討してきたところだ。

私たちは、この中から個人のパーソナリティとして「感情ー意志ー思考」を切り取って、それが自分だと認識して暮らしている。

しかし、この連なりの全体の残りは潜在的な意識として無自覚なものとして働いている。

「知・情・意」という人間の心のモデルでは心のトラブルをうまく説明できないので過去の臨床家が「無意識」「潜在意識」の存在を仮定したのは、そもそも人間がもっと大きなものだったからではないのか。

そして。この連なりの両端が外に開いている。自分のパーソナリティを守る自我の働きはあるものの、自我は外に開いていくように誘われている。

また、この両端に位置して離れているように見える「自然」と「社会」は実は別ものではない。

自然の中に生物は暮らしているが、人間は自然の中に社会をつくって暮らしている。あるいは、この社会が自然を作り変えて人間の生存の場を広げてきた。

人間の「連なり」において軋んでいるのは、この「自然」と「社会」の接合部であり、「自然ー身体ー感性」の部分と「感情ー意志ー思考」の部分の軋み、さらには「信念ー言説ー集団ー社会」と「感情ー意志ー思考」の軋みである。

「自然」と「社会」の関係性

「身体」と「自己」の関係性

「社会」と「自己」の関係性

この社会のありようが自然とうまく調和しないことが、連なりとしての人間の矛盾になって、身体との軋み、社会との軋みを生み出している。

交流分析で、p(親)は養育的な親と規範的な親にわけられて、C(子ども)は自然な子どもと適応的な子どもにわけられる。

臨床から生まれた交流分析の着眼のすばらしさだと思うが、集団内の人間関係として、仲間として情緒的交流をする側面(養育的な親・自然な子ども)と集団の秩序を維持する側面(規範的な親・適応的な子ども)を想定していることだ。

この記事のモデルで説明すると、

「自然ー身体ー感性ー感情ー意志ー思考」で関わるときが、自然で情緒的な交流になり、

「感情ー意志ー思考ー信念ー言説ー集団ー社会」で関わるときが、集団秩序を維持する規範的な交流になる。

人間と人間が関わることのできる交流コードがあるとしたら、前者は「自然」であり、後者は「社会」である。

被災地などの極限的な環境での交流が人間の情緒的な部分が出てくるのは、「社会秩序」が壊れてしまって、自然を交流コードとした人間性で関わることになり、そのなかで少しずつ秩序をつくっていこうとするからではないのか。

次第に住宅が整備され新しい暮らしが回復してくると、「社会」をコードとして関わってくることになる。

現代社会のメンタルヘルスのテーマは、この「自然性」と「社会性」の間で切断された「自己」が引き起こしている痛みだと思う。

本来、ひとつの連なりである人間が、これが自分だと切り取られて生きていけるはずがない。

そして、うまく「自己」を感性・身体を介して自然とつなげても、「自己」を言説を介して「社会」とつなげても、その「自然」と「社会」が反発している状況がある。

切れた電線をつないだとたん、ショートして火花が散って自己は壊れてしまう。

だから、現在のセラピーは、どちらかに偏っている。

�@ 身体とか、社会との接続は視野にいれずに、「感情ー意志ー思考」が自己だと考えて、「認知」や「行動」が心に負担を与えているのであれば、それを変えていくという手法。

�A ソマティック心理学(身体心理学)の流れで、身体との関わり、身体への介入をすすめることでメンタルヘルスを進めよとする。

�B 集団の中で形成された信念(言説)が自己を圧迫しているとして、「ビリーフ(信念)」や「スキーマ(早期に形成された深い信念)」を変えていくアプローチがある。

�C �@の進化系として、不都合な認知に捉われずに、今、ここの出来事に向き合って受けれていくマインドフルネスとしての瞑想的なアプローチ。

私は20年にわたる臨床のなかで、上記について取り組んできたつもりだが、手法相互の矛盾を感じてきた。

その原因が、人間の「連なり」の両端である「自然」と「社会」に不整合があることが個人の人生にまで影を落としているのだと今は理解している。

コンピューターやネット、仮想現実、拡張現実、AI(人口知能)という要素も入りながら、「自然と社会」のせめぎ合い、自然の作り変えは進んでいく。

メンタルヘルス支援とは、その動きの中から道を見出していくことだ。あるいは、その道をよい方向へと動かしていくことだ。

その意味では、私のようなメールアドレスコンサルタントは、その使命の末端にいるのであって、最前線は、技術、政治、社会構成に関わっている人たちである。

ライフストレス研究所 オフィスたぐち の活動の理念

�@ いのちの声が導く自然と調和した生き方に向けて、人間が成長するための研究・教育・援助を行う。

�A 心身がともに健康で、安心感と幸福感に満ちた、価値ある人生を送る人々を生み出す。

�B 自然性にあふれ、人々が相互理解の中で成長していく新しい社会を構築する。

壮大な話である。何もできていない私である。

付け加えるならば、この道には感性を社会に解き放っていく「アート」が必要だと考えている。

私は物語の創作・語りと挿絵を描く程度で関わってきたが、自然性をうめこんだ社会に、人々の心を豊かにしていくアートを埋め込んでいく活動にも関心をもっている。

その意味で、こうやって、理論とこねている自分に物足りなさを感じている。